羽村市動物公園でのテナガザルに対する実験 2004年8月15日(日)〜17日(火)
羽村市動物公園へおじゃまするのはこれで5回目。
今回も立川駅前の立川グランドホテルに宿泊(じゃらんで予約すると安い)。
猛暑の東京では珍しく、この期間は涼しく、天候にも恵まれた(くもり、晴れ、くもりのち雨)。
<登場するテナガザル>
ちゃ 雄:18歳7ヶ月齢(1985年12月24日生まれ)
さくら 雌:6歳5ヶ月齢(1998年2月19日生まれ)
さつき 雌:5歳8ヶ月齢(1998年11月29日生まれ)
なお、ちゃとさつきが同じ檻に同居し、さくらは隣の檻で一人暮らしをしている。
近々、さくらはいしかわ動物園へお嫁入りする予定。
<テーマ>
以下の4つのテーマを設定した。
@これまでさつきは2つカップ選択課題ではいい結果を示してきたが、3つカップ選択課題ではどうだろうか。
A年少のさくら、さつきでの操作性のデータは蓄積されてきたが、18歳の大人であるちゃの操作性と違いがあるだろうか。
B前回、ちゃが道具使用の前駆的行動を行ったので、それを検証する。
Cちゃはさつきの実験場面で遠慮するが、それは何を手がかりにしているのか調べる。
C協力行動の実験。
<実験の手続きと結果>
8月15日(日)
午後3時半から、天気くもり、涼しい。
1.いきなり3つ課題は無理なので、まず2つカップの片側ランドマーク(黄色・丸)課題から始めた。
さつきで実施。練習を3回やってから、実施。
結果は7/8の正答率(○、○、○、○、○、×、○、○)。
2.次に、2つカップの両側ランドマーク(黄色・丸と赤色・丸)課題をやった。
さつきで実施。練習せずに実施(後から考えると、これはまずかった!)。
結果は3/8の正答率(×、×、○、○、○、×、×、×)。
全然ダメ。
この時、6回目から最後までお客さんが大勢見ていたのでさつきの集中力が欠けたかもしれない。
3.それで、再度同じ課題をやり直してみた。
さつきで実施。これも練習なしで実施。
結果は6/8で、まずまずできた(○、○、○、×、○、○、○、×)。
4.2つカップの両側ランドマーク(黄色・丸と赤色・丸)課題がまずまずできたので、次に3つカップのランドマーク(黄色・丸と赤色・丸と青色・丸)課題をやってみた。
さつきで実施。
3つカップでのランドマーク(3色)課題
練習せずに実施(これも練習を抜かしてしまった。その時は何も意識がなかったが、ちょっと疲れて集中力に欠けていたかも。こういう時はうまくいかないものだ)。
最初の4回連続して×。その後2回○だった。
それで、ここまでを練習としてカウントし、再開したが、
×、○、×、×、×と5回やったところでさつきは意欲をなくし、6回目は検査にのってこなかったので終了。
1/5の正答率
きちんとした練習手続きを踏まず、非常にまずい検査の入り方をしてしまった。
この結果で3つカップでの選択課題ができないと早急に結論づけることはできないが、難しい課題であることは確かだ。
ただし、この日の検査結果がよくなかったことによって、検査の手続き(提示の仕方)が意図的ではないことを証明できたかもしれない。
5.協力行動の実験
林原類人猿研究センターの平田 聡さんが考案された実験をまねてやってみた。
二人で同時に紐を引っ張らないと食べ物が取れないという仕組み。
しかし、できなかった。
このような仕掛け
こうやったら取れるよと見本を見せてやってもできなかった。
手本を見せてもできず
8月16日(月)
天気晴れ、日陰は過ごしやすい。
1.ちゃとさつきの檻にたくさんのおもちゃを入れて、ちゃの反応を見る。
午前9時25分から開始。約45分間ビデオで記録した。
ちゃはおもちゃにあまり関心を示さない。手に持ってそっと舐めてみるという行動は何度か見られたが、何もさわらない時間が結構長かった。その中で最も興味を持ったのはタヌキのぬいぐるみ↓だった。
ぬいぐるみ
これを口に持っていくことなく、時々アイコンタクトもして上手に抱っこした(何度も)。ちゃは男性で育児経験もないはずなのにまるでお母さんのようだった。これは見立て遊び(ごっこ遊び)といえるかもしれない。ものの概念がよくわかっている。
アイコンタクトをして
ぬいぐるみをだっこする
その動画(WMVファイル)![]()
このおもちゃに対する操作については、後日詳しく記載し分析する予定。
ただ、一つ注目すべき点をあげておくと、ちゃはすぐにものを触りにいかず、まずはじっくりとものを見た。このような静観的態度は、ヒト乳児における対象指示行為(指さし行動)や言語獲得の基盤になるという指摘がある(岡本夏木、1982:こどもとことば、岩波書店)。
おもちゃと最初に対面した場面の動画(WMVファイル)![]()
2.2つカップの片側ランドマーク(黄色・丸)課題。
さつきで実施。練習を2回やってから、実施。
結果は4/8の正答率(×、×、×、○、○、○、×、○)。
前回出来たことが出来ないのはやり方に問題があると考え、さつきが検査に向かうまで道具をセットした状態で声かけをせず待つことにした。あまり来ないときはカップを板に軽く打ち付けたりアイコンタクトをして合図を送るのみにした。
すると、結果は6/8の正答率だった(○、○、×、○、○、○、×、○)。
3.次に、2つカップの両側ランドマーク(黄色・丸と黄色・三角)課題をやった。
さつきで実施。練習3回で実施。
結果は6/8の正答率(○、○、○、○、○、×、○、×)。
4.3つカップのランドマーク(黄色・丸と赤色・丸と青色・丸)課題。
さつきで実施。昨日の反省から、練習を3回やったが、いずれも出来ず。
出来ない課題をやっても仕方ないので、中止。
5.ちゃの反応をみる実験(ちゃはどういう場合に遠慮するのか?)
さつきの実験場面でちゃは遠慮してじゃまをしなくなった(前回の3月から)。
それはどういう場合での行動なのか知るのを目的とした。
【1】提示台の上に青いカップを2つ乗せて差し出す。
【2】提示台の上に食べ物を1切れ(リンゴ)だけのせて、差し出す。
【3】提示台の上に食べ物を2切れのせて、差し出す。
最初に【1】をやって、ちゃが来ないことを確かめてから、【2】と【3】を交互に5回ずつやってみた。
青いカップが刺激条件となってちゃは来ないのかと考えていたが、青いカップがなくても1切れの時は遠慮して来なかった(5回とも全て)。しかし、2切れの時はすぐに来て手を出した(5回とも全て)。
なお、青いカップなしに食べ物を提示するのは今回が初めてだったので、この【2】と【3】の区別は学習してできたことではない。
青いカップがなくても1切れなら、ちゃは遠慮して来ない
その動画(WMVファイル)![]()
2切れなら、ちゃは来る
その動画(WMVファイル)![]()
すごいな、ちゃは。
1切れと2切れの区別ができ、しかも1切れだと遠慮(さつきに譲ってやり)し2切れなら(自分ももらっていいかなと考えて)来る。
素晴らしい他者理解ですね。なお、ちゃは大人の男性で、さつきはまだ子供。力関係はハッキリしている。
”大人のテナガザルは子供テナガザルに対して寛容で優しい”という場面は野生でも観察された。ダナンバレー・SAPAファミリーのお父さん・シギューは、何度も息子・シクサイの遊び相手になってやった。
その場面の動画(WMVファイル)、追いかけっこ:
とっくみあい:![]()
6.道具使用の実験
ちゃで実施。前回、ちゃとさくらが果物模型を水の入ったバケツに入れてから、それを取り出し表面の水を舐めた。
また、園長さんからの電話で、ポッキー状の食べ物を与えると、それをバケツの水につけてから食べるという話を聞いていたので、甘くないプリッツを用意して与えてみた。
プリッツ(サラダ味)
すると、ちゃに16本与えたうち、6,8,10,11,13,16本目の計6回、プリッツをバケツの水につけ、すぐ取り出して表面の水を舐めてから食べるという行動が観察された。このプリッツには少し塩が入っているのでのどが渇いたのだろう(じつはそれがねらいだったのだが)。
これは、テナガザルらしい道具使用行動と考えられる。
16本目を与えた場面の写真&動画を下に示す。
プリッツを水入りバケツに右手で入れ
それを左手で取り出し
表面の水を舐める
その動画(WMVファイル)![]()
めったに見られない場面なので、そのスロー動画(WMVファイル)もどうぞ ![]()
この場面で、ちゃはプリッツをバケツの中へいったん”見ながら落とし”、それから拾い上げた。
このように、ものをしっかりと持ったまま水につけ取り上げるという一連の(定位)操作は難しいのかもしれない。しかし、ものを利用して水を舐めようという意図はしっかり持っていて、それを能力の範囲で実行する、それがテナガザルの素晴らしいところだと思われる。
8月17日(火)
天気くもりのち雨
さつきで実施。夕方3時半から実施。
1.3つカップでの短期記憶の課題
さつきで実施。
隠すところを見せてから、5秒間ついたてでカップを隠してから提示する。練習なしにいきなり実施。
前回(2004年3月末)2セッション(1セッション9試行、右・左・中を各3回ずつアットランダムに提示)実施して、15/18
(8/9, 7/9)だったので、もう一回データを取るのを目的とした。
その結果、
5/9という結果に終わった(○、○、×、○、×、×、○、×、○)。
それで、もう一度やってみたら、
同じく5/9だった。(×、×、○、×、○、×、○、○、○)
どうも集中力に欠け、5秒間待つことができないようなので、3秒間待つ課題に変えてやってみた。
すると、7/9と正答率が上昇した(○、○、○、×、○、○、○、×、○)。
雨が降り出したのでここで終了。
<まとめ>
1.ちゃは実験場面や食べ物が一つの場合はさつきに譲ることが明らかになった。
二つなら遠慮しなくていいと考え食べに来る。こんなことができるなんて、素晴らしいサルですね、テナガザルは。
2.ちゃは道具使用行動をすることが確認された。
水を飲むのにプリッツを使用した。それも一回だけではなく何回も。
3.さつきは3つカップでの課題が難しそう。
2つのうちの1つを選ぶのと、3つから選ぶのでは課題のレベルが違うことは分かっていたが、今回3つ課題はなかなかできなかった。それが、提示の仕方に問題があったのか、本当にできないのかもう少しデータを増やして検証する必要がある。
4.いっぱいのおもちゃを提示したときの反応が、さつきとちゃで違う。
ちゃはおもちゃをやさしく扱い、すぐかじったりしない。そっとなめるだけ。また、ぬいぐるみを何度も抱いた(その時アイコンタクトが観察された)。大人のテナガザルはものの性質をよく分かっている。また、ものをじっくりと見てからものとかかわる(静観的態度)。
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